★6月の星空
6月というと低くたれ込めた灰色の雨雲と、ジメジメとした湿気で、憂鬱な気分にしてくれる梅雨を連想してしまうが、上旬は初夏らしいさわやかな青空を見せてくれる日が意外に多いのだ。こんな夜は透明度もいいので、あっと驚くような美しい夏の星空に出会える。梅雨が明けて本格的な夏を迎えるころは、大気の水蒸気量が増えて、透明度が落ちるので、今のうちに天の川がダイナミックに流れる夏の星空を先取りしておこう。
初夏を迎え、さすがにしし座は西の空へと傾いたが、おおぐま座・うしかい座・おとめ座の春の南北ラインは、天頂を貫いて、まだまだ夜空の主導権は春の星座が握っている。しかし気がつくと、北-東-南にかけての地平線上には、まるで霞のように夏の天の川が横たわっている。すでに北東の空には、こと座のベガ・わし座のアルタイル・はくちょう座のデネブがつくる、夏の大三角が横たわって出番を待っている。また東の空からは、大蛇を抱えた巨人へびつかい座が、のっしのっしと昇り、南東の空には、夏はオレの季節と言わんばかりに、さそり座が上半身をもたげ、赤い1等星アンタレスが不気味に輝いている。

明けの明星 見ごろに
6月1日 金星が西方最大離角
3月21日に内合となり、夕方の西空から明け方の東空に舞台を移した金星が、4月27日には最大光度-4.7等星になり、さらに高度を上げて6月1日には西方最大離角を迎え、明けの明星として大いに目立っている。
ところで、「西方なのになぜ明け方の東の空に見えるのだろう」なんて、疑問に思ったことはないだろうか。わかってみれば「なんだ。そういうことか」のレベルの話だが、一度わからないとなかなか覚えられないことの一つかもしれない。そもそも最大離角とは、地球の内側を回る内惑星だけに与えられた用語だ。つまり地球から見て、水星や金星を地球から見たときに太陽から黄道上で最も離れて見えるときのこと。太陽-内惑星-地球が作る角度が90°になったときでもある。そのときの太陽からの離角は、水星で18°~28°、金星で46°程となる。また、最大離角は太陽の両側で起こるが、地球から見たときに太陽より東側に離れたときを東方最大離角といい、太陽から西側に離れたときを西方最大離角という。地球から見上げたときに、金星が太陽より西側にあるということは、太陽より先に沈むことになり、また太陽より先に東の地平線上にのぼるということだ。だから明け方の東の空に明けの明星として見えるわけだ。

ただ、最大離角のころは太陽との離角が46°もあるので、地平高度が最も高くなると思われがちだが、今回の西方最大離角では、日の出30分前の金星の地平高度は、20°程と、意外に低い。その理由は、惑星の軌道は地球の軌道とほぼ同一平面なので、惑星は黄道に沿って動くことになる。また、黄道の地平線に対する傾きは季節によって変化するため、黄道の傾きが小さい3月から6月に西方最大離角になると、地平高度は劇的に高くならない。最大離角以降、太陽離角は徐々に小さくなってゆくが、地平線に対する黄道の傾きは10月ごろまで大きくなってゆくため、7月に向けて金星の地平高度は高くなってゆき、7月下旬には27°に達するという面白いことが起こる。つまり金星の地平高度が最も高くなるのは、西方最大離角後55日ほど過ぎてからなのだ。
